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蒼の教室 #3

■3■

「ヨロシク……」


 いつの間にかあたしの前にきていた花子さんは、たどたどしい日本語でぺこりと頭をさげる。このみょうにぎくしゃくした感じ、日本にまだ慣れてない外人さんだ。名は花子だけど。……姓は?

 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。

 花子さんはその細くて柔らかそうな長い金髪をふわりと揺らして、自分の席についた。

 あ、この人、「羽」も「輪」も無い!


「教科書まだナクテ……、見せてクダサイマス?」

「え、うん」


 ずっずっと机を寄せてくる花子さん。
 あたしは広げていた教科書を右端に寄せた。
 自然とあたしと花子さんの身体の距離が近くなる。

 うん、やっぱりこの人は普通の人だ。あたしと同じく輪も羽もない。


「……アナタ、羽がないんですね」


 ぽつりと囁く彼女の声。
 そしてぞくりと身体を襲う悪寒。知られてはいけない秘密を知られたような。

「う、うん……ちょっと」

 思いっきり動揺しているあたし。

「でもミナサンには羽と輪がある」

 あるね……。

「何てザンコク……外がサワガシイですね」

 ん?そんなに騒がしいかなぁ?
 ここはそんなに騒がしい場所じゃない。静かなところだ。

 試しに耳をすます。
 すると小さな人間の声が聞こえてくる。少し驚いた。
 混信している無線のような声。訛りがひどい、外国語?


「……ココはいったいドコなのでしょう?」

 すっとカットインする花子さんの台詞。教室だよ。

「教室だと……思う」

 でも、どうしてこんな非断定の言い方をしてしまうのだろう。

「どうして?」

「……みんながいるから」

「ミンナ? でも他の人たちには『羽』も『輪』もある。
 アナタにはナイ。 アナタは他の人とはチガウ。
 アナタ……ミンナは自分と同じモノと思っている?」


 なんなんだ?この金髪冬服美少女は。


「……教科書見せてあげないよ」

「ああぅ。それコマリマス」


 ばたばかと髪を振り、彼女はまずまずあたしに身体をぴったりとくっつける。
 精巧な人形のような横顔。ヤバイ、今一瞬抱きしめたいと思った。


「あなただって『羽』と『輪』がないじゃない」

 反撃開始。

「ワタシ?……フフフッ」

 彼女は白い手を口元に当てて笑う。
 こういう上品な仕草が自然と思えてしまう。


「ワタシはこれでイイノデス」

 笑顔のまま彼女は顔をこちらに向けてそう言った。
 良いって……。

「アナタはこのままでイインデスカ?」

 ぐっと彼女はあたしに顔を近づけてきた。

「え?」

「あなたは周りのクラスメイトと違って『羽』も『輪』もナイ。
 コレって非常にマズイですよね。そのためにアナタはクラスの中の異物にナルノデスカラ。」

 花子の細い指があたしの両ほほに触れる。とても強い力。あたしは顔の向きを自由に動かすことができない。

「ワタシ……あなたを助けることができるかもしれない」


 彼女の唇があたしの顔に近づいてくる。
 拒否しようとも自由に顔を動かすことはできない。鼻腔が甘い香りでくすぐられる。

「やっ……!」

 止めてと言おうとした瞬間、それまでゆっくりとした動作とはうって変わって、猫が獲物に飛びかかるような素早さであたしの唇が彼女の唇に捕獲する。

 唇の間から進入する舌。抵抗できない。んーっ、んーっ。
 舌先が別の暖かいもので包まれる。口内な別な質感で犯されていく。

 熱気が身体からはみ出していく。溶けていく。


「ね……?」


 唇が離された。息が新鮮な空気を中へと掻きいれる。でも冷めない。身体が飢えている。もっと熱を。もっと唾液を。もっと愛撫を。

 火照ったあたしの顔を満足げに見ている彼女。


 輪っか?背中の翼?
 それがあればもっと楽になれる? このクラスの中で楽になれる?

 身体がこれまで聞こえてこなかった声を出している。
 さびしい。さびしい。このままじゃクラスのなかで独りぼっちだよ。
 欲動がアートマチックに加速する。
 足りない。あたしには足りない。足りないものを補完したい。


「……」


 彼女と目があった。その瞳に吸い込まれそう。
 加速する。足りないものを探して。欲望が加速する。絶望が背後から追い立てている。
 欲しい。欲しい。欲しい。

 今度はあたしが彼女の唇に吸い付いた。
 あたしの舌が彼女の口腔を犯す。飢えた獰猛な野獣のように。


 欲しい。欲しい。
 この恐ろしさから逃れるすべてが欲しい。


 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


 「外」からそんな声が聞こえた。
 身体をどろどろに溶けさせる熱気の海へと沈んでいくあたし。
 その声は天空から降ろされた古い記憶を思い出せる懐かしさを練り込んだ蜘蛛の糸。


 欲しいの?欲しいの?
 輝く光輪が欲しいの?漂白された白い翼が欲しいの?
 アゲルヨアゲルヨ。幸福ヲアゲルヨ。


 吸われ続けるあたしの唇。意識までどんどん吸われていく。
 欲しい。欲しい。欲しい。もっと、もっと、欲しい。


 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


 溶けていく。溶けていく。あたし。
 幸福がほし


 コツン。


 何かが彼女の頭に当たった。
 頭に当たった後、床を転がる白くて細いモノ。
 ……チョーク?


「そこ。いい加減にしなさい」


 教壇には投球ポーズのままの先生がいた。


「花子さんも、大溪さんも何ですか?
 授業中ですよ」


 先生の言葉にあたしははっとする。
 自分の制服がなんかいろいろとヤバイ感じに乱れていた。

 慌てて服を直す。



「花子さん、それはいけません」



 まだ身体に熱情の余韻が残り心臓がバクバクいっているあたしとは対照的に、隣の彼女はすました横顔で席についている。


「なぜ?」


「フェアではありません」


「この子は『光輪』も『白翼』も欲しがっていた」


「それは欲しがるものではありません」


「先生は大溪さんではないのに、何故そう言えるの?」


「わたしは『先生』だからです。

 この話はこれで終わりです。
 さっ、最後の授業を続けましょう」


 先生と彼女の会話は意味不明だ。
 だけど二人の話がかみあっていることは判る。
 でもあたしには、どのような意味で、どのような背景で、二人の会話が成り立っているのかがわからない。


 確かなのは、あたしが「輪」も「羽」ももらえるチャンスを失ったことだ。
 あたしはこのままクラスの中での外れモノであるままであるということだ。


 欲しい。
 どうして邪魔をするの?

 どうして?


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テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/05/11(日) 14:39:34|
  2. 小説
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