pre-posi blog

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蒼の教室 #6

■6■

 あたしはしばらく現地の病院に入院することになった。
 白衣と迷彩服を着た人たちが行き交う病院の個室ベットにあたしは眠っている。
 身体中に包帯をまかれている今の状況では身動き一つとるのも大変だ。

 明日には両親が飛行機でこの国にやってくる。そのままあたしを連れて帰る予定だ。


 先生とクラスメイトを乗せたバスがなぜ大爆発を起こしたのか、その原因はまだ発表されていない。事故なのか、事件なのかそれさえもはっきりしない。あたしは何も知らないのだ。現地に残った外国語教師はあたしに新聞もテレビも見せようとはしないし、あたしもそれを求めることはしなかった。

 ただ事実としてあるのは、バスが大爆発をしたこと。乗っていた先生もクラスメイトも全員死んでしまったこと。バスの外にいたあたしも飛び散った破片などで大けがをして血まみれだったこと。


 みんなが死んでしまったことがまだ実感としてわかない。
 なんとなくそうだろうな、とは思う。あの変な夢を見たせいだろうか。
 それでもこの病室を抜け出せば、そこにクラスメイトがいるような気もする。


 今、病室には誰もいない。

 個室内に注がれる太陽光がキレイだった。


 その時、ドアが開く。
 入ってきたのはベージュ色の迷彩服をきた金髪女性だった。
 見覚えのある人だ。確か、バスの前で血まみれだ倒れていたあたしを介抱してくれた人だ。
 あわてて周りに目をやる。どんなに探しても通訳をしてくれる外国語教師の姿は見えない。早く来て欲しい。


「どう? 独り生き残った感想は?」


 彼女の口から発せられたのは外国語ではなかった。言葉が分かる。
 その事に驚いた瞬間、もっと驚くことが起こった。

 彼女が来ていたベージュ色の迷彩服が一瞬にして学校の冬服制服に、そして肌の色も白く顔つきも幼くなった。その姿はあの奇妙な夢の中で出会った転校生の姿そのものだった。


「驚いた? 大溪さん。
 あの夢の中に出てきた人間と同じだって」


 あたしは言葉がでない。
 ただベットの中で硬くなっているだけで。


「わたしはねー、『死神』なの。この辺りを管轄する。
 普段はここまで関わらないんだけどねー、珍しい外国の人だったからちょっとちょっかい出しちゃった♪

 まぁー、ちょっと悪いことしたかなーとか思ったから、あなたに良いこと教えてあ・げ・る♪」


 にこにこ顔のまま彼女はあたしに近づいてくる。
 そしてあたしの顔をのぞき込むと、すっと真面目な顔をする。


「あのバスが爆発した原因はテロよ。外国人観光客を狙ったのね。
 もう少しで犯行声明が政府に届くわ。当然大騒ぎとなる。
 あなたはこれから多数のマスコミや政府や政治関係者を相手にしなくてはならない。
 関係のないことまで聞かれ監視され、そのために周りの人から煙たがれることもある。
 あなたは単なる生存者から否応なく『文化的シンボル』となるの。
 他人に大きな影響力を与える人間になるの。その影響力を利用したい人たちはいっぱいいる。
 ひどく息苦しい生活がこれから先ずっと続く。親切な笑顔が信じられなくなる。人が信じられなくなる。ただ独り生き残ったことで、他の遺族の理不尽な恨みを買うこともある。
 それらにずっとあなたは耐えていかなければならない。あの時死んだ方がよかったと思うときがくる。それでも耐えていかなければならない。
 この意味わかる?」


 彼女はばさりとその金髪を広げると、両手でどこからか現れた大鎌を持つ。


「それが嫌なら今すぐ命を刈り取ってあげる。
 大けがをして表面に現れていない原因で後日死亡するのはよくあること……」

 シリアスな表情でそう言ったあと、さっと音もなく大鎌を構える彼女。
 しばらくして、彼女はん?とも擬音がつきそうな戸惑いの表情を浮かべた。


 それはあたしが部屋に降り注ぐ太陽の光のもと、にっこりと笑っていたからだろう。


「嫌です。

 あたし、死にたくはありません」


 確かに彼女の言うとおりの苦難が待ちかまえているかもしれない。
 でも、あたしは、生きたい。

 これまで病院のベットのなかで何度もあの爆発の瞬間を思い出した。
 とても苦しい記憶だった。あたしはいろいろなものを見てしまっていて、それが記憶の中で消しようもなく刻まれているのだ。

 でもその記憶の沼に引きずり込まれそうになったとき、心には別の記憶が読み上げる。
 それはあの夢の中で見た教室の風景。クラスメイト達がいるあの美しい風景。
 あの美しさがが心のささえになっている。

 あの蒼の教室があたしを生かしてくれている。


 さびしい。
 でももう大丈夫だから
 ありがとう。



「そう……仕方がないわね」


 彼女はふっと苦笑して大鎌を戻した。


「じゃ、帰るわ。

 Bon Voyage!」


 彼女はそう言い残した後、すっと音もなく、光と混じり合うがごとく、かき消えた。
 まるでその部屋には最初からいなかったかのように。
 まるでたちの悪い白昼夢のように。

 その後、あたしは彼女の姿を見ることはない。


END
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  1. 2008/05/11(日) 14:42:46|
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蒼の教室 #5

■5■

 暗闇の中で意味不明の言葉に耳が襲われる。
 瞼を少しずつ開けていく。何かが額に張り付いている。
 視界ががうっすらと開けていく。だれかが側にいる。
 外国語? 何か意味不明の言葉で呼び変えていく。

 まず最初に太陽の光線を浴びて光り輝く金髪が見えた。
 そして次に目に入ったのは―――見飽きた蒼い空。

 ベージュ色の迷彩服を着た金髪女性が必死にあたしに声をかけている。
 目があった。一瞬あの転校生のことを思い出した。似ている。でも肌の色が全然違う。
 彼女はあたしの手を握り、何かを言っている。

 返事をしなきゃいけない?
 うん、返事をしなきゃいけない。この場合外国語? 外国語の返事って?


「oui」


 何故かその言葉が自然に出てきた。どこかで聞いた言葉だ。
 彼女は一瞬とまどい、そして笑顔で先ほどとは違うリズムの言葉で呼びかけてきた。
 ごめん、よくわららないよ。


 ここは何処なんだろう。
 地上であることは間違いはないんだけど。

 この違和感のする乾いた空気。
 そしてまるで絵のような蒼い空。
 ここは何処だろう。

 彼女の顔の向こう何かがあった。
 何か真っ黒焦げになった大きな物体。ああ、バスか。


 ……バス?


 大溪また忘れ物か――?
 うわ、またかよ。いい加減にしろよ大溪さん。
 ごめんごめん、いますぐ取りに戻ってくるから。


 浮かんでいくちょっと前の出来事。
 あたしは忘れ物を取りに行って、クラスメイトががすでに乗り込んでいたバスに戻る途中だった。


 そのバスは今、真っ黒になりぼろぼろになっている。
 周辺に黒くなったものがいろいろと散らばっている。あ、あればバックだ。


 心が変に落ち着いている。
 でも涙がぽろぽろとこぼれてくる。


 何故だか知らないけど、
 あのバスに乗っていた先生やクラスメイトがどうなったのかを知っていたから。


 みんな、みんな。死んでしまった―――。


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  1. 2008/05/11(日) 14:42:03|
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蒼の教室 #4

■4■

「花子さん……」
「先生がああ言った以上、あなたにあげることはできません」


 目も合わさずにそう言われた。

 ちょっと。その態度何?


「大溪さん、その話は終わったはずです」

 キツイ壇上からの先生の声。

 ちょっとちょっと。
 何?何?何?


 どーん。


 校舎の外から花火を打ち上げたような音がした。


 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


「先生、
 あたしは『輪』も『羽』も欲しいです」


 あたしは手を挙げてそう発言した。
 とたんにざわつく教室内のクラスメイト。

 この反応は意外だった。


「ダメです」


 黒板のほうを向いたままの先生。


「どうして?」


 クラスメイトのざわつきは止まらない。


「あなたは何もしらないからです」


「『輪』と『羽』。
 ただそれだけのものでしょ?」


「それだけのものではありません」


 どーん。


 また、校舎の外から花火を打ち上げたような音がした。
 さっきと同じ音?


「じゃ、なんなんですか? 『輪』と『羽』は?

 あたしは『輪』と『羽』が欲しいですっ!」


 ―――そう言ったとき、身体が急に固まった。
 足ががたがたと震えている。まるで自分の身体ではないみたい。
 この感覚は怯え? あたしの身体が猛烈に拒否している。
 脳が猛烈な勢いで空白エリアを拡大させている。


「!……大丈夫ですか? 大溪さん」


 足が震えている。
 あたしは『輪』と『羽』が欲しいと思った。
 でもあたしの身体はそれを拒否している?



「―――先生。

 もう授業は終わりにしましょう」



 1人の男子生徒(輪と羽を装着済み)が立ち上がってそう言った。
 おいおい、どんな自由な授業だ。


「……もう少し、と思ったが、
 もう潮時か……」


 先生は拒否しない。その視線を窓の外に向ける。


 窓には空が映っていた。
 あたしは初めて気づいた。



 窓には

 「蒼い空」しか

 映っていない。



 !?


 おかしい。
 いつもなら窓の外には、グラウンドが、街の風景が、地上が、映っているはずなのに。



 何故、蒼い空だけ?



 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


 また、聞こえた。
 遠くからの呼びかけの声。
 どこから聞こえてくるんだろう?


「大溪さん、その『声』に返事をしなさい。

 返事をすることであなたは『他人』となることができる。

 ハイ、でも、oui、でも、かまわない。
 返事をしなさい。」


 先生は窓の方を向いたままそう言った。


 嫌な予感がする。

 窓の外に広がるあり得ない風景。
 シリアスな先生の表情。
 遠くから聞こえる得たいの知らない声。


 この状況に中で返すことばはただ一つ。
 自然に出てくる言葉はただ一つ。


「『嫌』!」


 拒否の「返事」だけ。

 言った瞬間、先生は笑顔のの表情を向けた。


 教室の天井がばりばりと砕け散った。

 その破片はさらに細かくなり四散し消え去る。
 頭上に広がる蒼い空に消え去る。


 あたしは気づいた。

 拒否の言葉も「呼びかけ」への「返事」だということに。
 その不条理さに卑怯だと思った。

 何に対して? 
 なにもかもの背後にあるもの対して、だ。

 だけど、もう止められない。
 あたしは決めてしまった。決めようとは思わなかったのに。

 空が、蒼い空が、ひろがっていく。


 視線を頭上から周りに落としてみると、
 すでに教室を取り囲んでいた壁や窓は消えていた。


「わっ」

 身体のバランスが崩れる。背中側が急に重くなった。
 視線が宙を舞う。また、蒼い空。
 後ろに倒れる。派手に尻餅をつく。

「何……?」

 あたしが座っていた椅子が無くなっていた。
 そして机も消えている。


 クラスメイトたちは全員立っていた。
 それぞれの光輪を輝かせ、白い翼を大きく広げて。


 あたしの隣にいたはずの転校生の姿を見つけることはできなかった。


「それでは、今日はここまで。

 ―――みなさん、良い未来を」


 先生がパタンと出席簿を閉じる。
 背後の黒板がすっと消えた。


 羽を広げて先生は飛び立つ。
 それに続いてクラスメイトたちも順々に空へ向かって飛び立つ。

 ―――飛び立てないのは、羽をもたないあたしだけ。


 待って。

 待って、待って、待って。


 空に手を伸ばす。

 何も届かない。
 何も掴めない。
 何も意味がない。


 先生とクラスメイトは蒼い空の中に消えていってしまって―――あたしはただ独り、ここに残される。


 叫ぶ。
 意味不明の言葉を叫ぶ、
 まるで生まれたての赤子が発する鳴き声のように。

 身体がどうなろうと知りはしなかった。
 ただ叫んだ。


 そして叫びつかれて咳き込んだときに、それまで残っていた床が崩れた。

 
 墜ちる。 

 あたしは墜ちる。

 重力セカイの住人らしく、墜ちる。


 より深き蒼のセカイへ、墜ちていく―――。

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  1. 2008/05/11(日) 14:41:14|
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蒼の教室 #3

■3■

「ヨロシク……」


 いつの間にかあたしの前にきていた花子さんは、たどたどしい日本語でぺこりと頭をさげる。このみょうにぎくしゃくした感じ、日本にまだ慣れてない外人さんだ。名は花子だけど。……姓は?

 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。

 花子さんはその細くて柔らかそうな長い金髪をふわりと揺らして、自分の席についた。

 あ、この人、「羽」も「輪」も無い!


「教科書まだナクテ……、見せてクダサイマス?」

「え、うん」


 ずっずっと机を寄せてくる花子さん。
 あたしは広げていた教科書を右端に寄せた。
 自然とあたしと花子さんの身体の距離が近くなる。

 うん、やっぱりこの人は普通の人だ。あたしと同じく輪も羽もない。


「……アナタ、羽がないんですね」


 ぽつりと囁く彼女の声。
 そしてぞくりと身体を襲う悪寒。知られてはいけない秘密を知られたような。

「う、うん……ちょっと」

 思いっきり動揺しているあたし。

「でもミナサンには羽と輪がある」

 あるね……。

「何てザンコク……外がサワガシイですね」

 ん?そんなに騒がしいかなぁ?
 ここはそんなに騒がしい場所じゃない。静かなところだ。

 試しに耳をすます。
 すると小さな人間の声が聞こえてくる。少し驚いた。
 混信している無線のような声。訛りがひどい、外国語?


「……ココはいったいドコなのでしょう?」

 すっとカットインする花子さんの台詞。教室だよ。

「教室だと……思う」

 でも、どうしてこんな非断定の言い方をしてしまうのだろう。

「どうして?」

「……みんながいるから」

「ミンナ? でも他の人たちには『羽』も『輪』もある。
 アナタにはナイ。 アナタは他の人とはチガウ。
 アナタ……ミンナは自分と同じモノと思っている?」


 なんなんだ?この金髪冬服美少女は。


「……教科書見せてあげないよ」

「ああぅ。それコマリマス」


 ばたばかと髪を振り、彼女はまずまずあたしに身体をぴったりとくっつける。
 精巧な人形のような横顔。ヤバイ、今一瞬抱きしめたいと思った。


「あなただって『羽』と『輪』がないじゃない」

 反撃開始。

「ワタシ?……フフフッ」

 彼女は白い手を口元に当てて笑う。
 こういう上品な仕草が自然と思えてしまう。


「ワタシはこれでイイノデス」

 笑顔のまま彼女は顔をこちらに向けてそう言った。
 良いって……。

「アナタはこのままでイインデスカ?」

 ぐっと彼女はあたしに顔を近づけてきた。

「え?」

「あなたは周りのクラスメイトと違って『羽』も『輪』もナイ。
 コレって非常にマズイですよね。そのためにアナタはクラスの中の異物にナルノデスカラ。」

 花子の細い指があたしの両ほほに触れる。とても強い力。あたしは顔の向きを自由に動かすことができない。

「ワタシ……あなたを助けることができるかもしれない」


 彼女の唇があたしの顔に近づいてくる。
 拒否しようとも自由に顔を動かすことはできない。鼻腔が甘い香りでくすぐられる。

「やっ……!」

 止めてと言おうとした瞬間、それまでゆっくりとした動作とはうって変わって、猫が獲物に飛びかかるような素早さであたしの唇が彼女の唇に捕獲する。

 唇の間から進入する舌。抵抗できない。んーっ、んーっ。
 舌先が別の暖かいもので包まれる。口内な別な質感で犯されていく。

 熱気が身体からはみ出していく。溶けていく。


「ね……?」


 唇が離された。息が新鮮な空気を中へと掻きいれる。でも冷めない。身体が飢えている。もっと熱を。もっと唾液を。もっと愛撫を。

 火照ったあたしの顔を満足げに見ている彼女。


 輪っか?背中の翼?
 それがあればもっと楽になれる? このクラスの中で楽になれる?

 身体がこれまで聞こえてこなかった声を出している。
 さびしい。さびしい。このままじゃクラスのなかで独りぼっちだよ。
 欲動がアートマチックに加速する。
 足りない。あたしには足りない。足りないものを補完したい。


「……」


 彼女と目があった。その瞳に吸い込まれそう。
 加速する。足りないものを探して。欲望が加速する。絶望が背後から追い立てている。
 欲しい。欲しい。欲しい。

 今度はあたしが彼女の唇に吸い付いた。
 あたしの舌が彼女の口腔を犯す。飢えた獰猛な野獣のように。


 欲しい。欲しい。
 この恐ろしさから逃れるすべてが欲しい。


 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


 「外」からそんな声が聞こえた。
 身体をどろどろに溶けさせる熱気の海へと沈んでいくあたし。
 その声は天空から降ろされた古い記憶を思い出せる懐かしさを練り込んだ蜘蛛の糸。


 欲しいの?欲しいの?
 輝く光輪が欲しいの?漂白された白い翼が欲しいの?
 アゲルヨアゲルヨ。幸福ヲアゲルヨ。


 吸われ続けるあたしの唇。意識までどんどん吸われていく。
 欲しい。欲しい。欲しい。もっと、もっと、欲しい。


 ―――イキテイルヒトハイマスカ?


 溶けていく。溶けていく。あたし。
 幸福がほし


 コツン。


 何かが彼女の頭に当たった。
 頭に当たった後、床を転がる白くて細いモノ。
 ……チョーク?


「そこ。いい加減にしなさい」


 教壇には投球ポーズのままの先生がいた。


「花子さんも、大溪さんも何ですか?
 授業中ですよ」


 先生の言葉にあたしははっとする。
 自分の制服がなんかいろいろとヤバイ感じに乱れていた。

 慌てて服を直す。



「花子さん、それはいけません」



 まだ身体に熱情の余韻が残り心臓がバクバクいっているあたしとは対照的に、隣の彼女はすました横顔で席についている。


「なぜ?」


「フェアではありません」


「この子は『光輪』も『白翼』も欲しがっていた」


「それは欲しがるものではありません」


「先生は大溪さんではないのに、何故そう言えるの?」


「わたしは『先生』だからです。

 この話はこれで終わりです。
 さっ、最後の授業を続けましょう」


 先生と彼女の会話は意味不明だ。
 だけど二人の話がかみあっていることは判る。
 でもあたしには、どのような意味で、どのような背景で、二人の会話が成り立っているのかがわからない。


 確かなのは、あたしが「輪」も「羽」ももらえるチャンスを失ったことだ。
 あたしはこのままクラスの中での外れモノであるままであるということだ。


 欲しい。
 どうして邪魔をするの?

 どうして?


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  1. 2008/05/11(日) 14:39:34|
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蒼の教室 #2

■2■


「わっ」

 地面にぶつかる!と思ったわたしは急に身体を引き押した。
 それは本能の行動。止められない。


「大溪ぃ、寝てたなー」


 先生の声。
 黒板に書き込まれたチョークの文字。
 生徒机に上に置かれた真っ白なノート、その側に転がっているシャーペン
 わたしの四方を囲む夏服姿の生徒達。


「ええっ……」


 ノートにはよだれのシミが。


「……スミマセン」


 あたしが小さな声で謝ると、周りからくすくすという笑い声が。
 やだなー、また、寝てたんだー。自分の短い髪を掻き上げる。焦った時のわたしの癖。


「前の時間の事で疲れているのはわかるがぁー、
 周りもみんな同じだからなぁー。もうちょっと、気を引き締めろよぉー」

 と先生はひょこひょこと背中の羽を揺らしながら、呆れたように言った。
 わたしは顔を真っ赤にしたますます小さくなる。


 ……羽?


 何か一瞬だけ見慣れないモノが先生の背中に付いていたような気がする。
 そしておずおずと下に向けていた視線を上げて先生を見た。
 羽じゃない、輪っかだ。頭のすぐ上を輪っかが浮いている。見間違いだった。やれやれ。


 ……輪っか?


 いやー、あれー?

 あれー?
 あれー?
 あれー?

 なになになになに。どうしたのいったい先生。そんな格好が似合うような時期でもないし年でもないし顔でもない。いったいどうなってしまったんだ、教員というものはストレスがたまりやすい職業だとは聞いていたけど、それが実際目の前でえげつないものとなって現れるとどうしたらいいか判らなくなってしまう。こういうのを思考停止というのだろう。
 どうしたらいいか判らなくなっているのはあたしではなないらしい。周りの生徒達もこの哀れな先生については普段どおり接している。そうだ、それが答えだ。おかしなものなんて見ないふりをすればそれは存在しないと同じだ。

 あたしはこの賢明なる「頭上に輪っか」と「背中に羽」をを生やしたクラスメイト達を見習わなければならない!


 ……。
 …………。
 ………………。

 ……ううっ、なんなのよー。


 凹んだ。いや、もう、これは凹むしかない。
 おかしいのは先生だけじゃない。クラスメイトまでおかしくなっている。そりゃなんだかんだと言って高校生というものはストレスがたまりやすい時期だとは聞いていたけど、それが実際目の前でえげつないものとなって現れるとどうしたらいいか判らなくなってしまう。こういうのを思考停止というのだろう。
 どうしたらいいか判らなくなっているのはあたしだけらしい。周りの生徒達もこの哀れな生徒については普段どおり接している。やっぱり、それが答え? おかしなものは自分もおかしくなればそれは存在しないと同じだ。


 ……凹んだ。自分の思考の欺瞞に凹んだ。


 あたしはしばらく夏服制服に羽を生やし、頭上に輝く輪っかをのせているクラスメイトたちを見ていた。白色の夏服と白い羽というのは案外合うもんだな、と思いながらも自分の記憶の奥からこのセカイの常識ってやつを引っ張り出してくる。

 大丈夫。この状況は「常識」テンプレートからは外れている。
 この場は「非常識」に分類される。うんうんうん。

 そこまで考えた後、あたしははっとして恐る恐る頭の上と背中を手で触れてみた。なにも特殊な異物はついていない。どうやらあたしには頭の上の輪っかも、背中の羽もないみたいだ。……良かった。


 ……良かった?
 いやまて、あたしが「普通」ということは、この中では「異常」ということではないのか。そう考えると急に身体が硬くなる。あたしは他の人にどんな風に思われているのだろう。こんなヴィジュアル的に明白な違いがある以上、普通には思われないだろう。


 うわっ。これはキツイ。


「あーっ。突然だが転校生を紹介する」


 授業の途中で先生がなんの前触れもなくそう言った。
 先ほどまでチョークの文字が踊っていた黒板が、いつのまにかキレイさっぱり消されていた。

 でもあたしはそれどころじゃない。
 この授業はいつか終わる。いまは授業中の生徒達だが、その時間が終わったときどうなるか? 想像するだけでも、怖い。そんな事ばかり考えている。


「こんにちは。花子です」


 黒板の前には冬服の制服をきた白い肌が印象的な金髪美少女が立っていた。
 その後ろの黒板には縦書きで「花子」と書かれていた。

 いつの間に教室にはいってきたのか?……あたしが気づかないうちに入ってきたのだろう。なぜ冬服を着ているのか?……転校生であるからまだこの学校に不慣れだからだろう。なぜ金髪美少女が花子というジャパニーズな名前なのか?……ふざけた名前をつける親はどこにでもいる。だいたい、花子を訳してフラワー・チルドレンとしたら陽気な古代西海岸風のテイスト満載ではないか。

 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。
 気にしちゃダメだ。

 あたしはそれどころじゃないのだ。


「あーっ、花子さんの席は……大溪の隣だな。ちょうど空いているし」


 えっ、と思ってあたしは右隣の席をみる。
 空いていた。今まで気づかなかったけど。
 でも考えてみればずっと空いていたような気がする。


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  1. 2008/05/11(日) 14:39:15|
  2. 小説
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